第18章 ◆柴田ノ恋
自分の大切な人が
色んな人から大切にされている。
目の前の二人を見ればそれは
さなには嫌な程分かる。
離れた場所に住む友達が
夏目の顔見たさに
電車を乗り継いで来てくれるなんて
さなにとっては少し羨ましく
そして、何だか嬉しくもあった。
「 第一、夏目お前はー・・・ 」
「 もう、分かったよ。」
「 まだ、何も言ってないだろっ?」
文句を言い合っているようで
ただ単に
じゃれ合っているようにしか見えない
そんな二人を
にこにこと笑いながら見守るさな。
それは
家に着かなければ良いのに
と思える程楽しい光景だった。
笑い声さえも漏れる
そんな時、
「 へ・・・、ぇ、ぁ・・・っ。」
急にさなの視界が真っ暗になる。
思わずその場にしゃがみ込み
声を発そうとも、上手く声が出せない。
「 は、ぁっ・・・!」
何がどうなっているのか。
そう、
これは学校でも同じ事が起こっており
学校の場合はすぐに意識が途切れてしまった。
その後、さなが目を覚ました時には
既に保健室のベッドの上で。
夏目の青ざめた顔を見つけて
どうして私よりも体調が悪そうな先輩が
座っているの?とさなが疑問に思い
思わずクスリと笑いだしたのは
数時間前の出来事だ。
その時は妖絡みだとは
教えて貰っていなかったが
今回は違う。
嫌な気がずっと背後に付いている。
どうにか、夏目に知らせたいが
さなの耳に薄らと届く音は
先程と変わらない会話のやりとり。
夏目は柴田とどうやらまだ
痴話喧嘩中のようだった。
「 ぅ、・・・」
ー夏目、先輩っ・・・!
必死に呼んでいるのに
・・・正確には
呻き声を辛うじて発しているだけだが、
彼らの痴話喧嘩は止まらず
さなの状況に気付かない。
さっきはあんなに微笑ましかった
彼らのやりとりだが
今はそうは思ってられない。
ーお願い、気付いてっ!
届かぬとも、夏目へと手を伸ばした瞬間
さなの足に
ひやりと冷たい何かが触れた。
へ・・・?
その瞬間、さなの意識が途絶えた。