第18章 ◆柴田ノ恋
「 はぁっはぁっ・・・はぁーーっ」
あまりに自分の呼吸が煩く響くので
柴田は一度足を止めた。
呼吸を整えながら
柴田は盛大な溜息も
零さずにはいられなかった。
なんと言っても見渡しの良いこの土地
こんな地域でたった一人の少女を
見失ったのだ。
ー・・・あの子、足早くないか・・・?
「くっそー・・・っ!」
いくら足が早いにしても
現役男子高校生が
華奢な女子高生に
体力と足の速さで追いつけないとなると
少し問題である。
ましてや、
柴田の体力も足の速さも
学年でも劣っている訳では無い。
寧ろ順位を付けるならば上位に来る筈だ。
・・・いや、筈だった。
ここまでしてやられると
柴田の学校のレベルさえ怪しく思える。
「 折角の、通行人だったのにーっ!」
叫ばずしていられない。
あんなに全力で拒否されるならば
もっとこう、
ナチュラルな接し方の方が良かったのか。
いくら魅力的とは言え、
ウブな女子高生に対して
少し攻めすぎたのかもしれない。
しかも、初対面。
「 はぁ・・・」
柴田の何度目かの溜息が漏れた。
思わずその場にある外壁に凭れ
ずりずりと背中を擦ってしゃがんだ。
ー・・・仕方ない、他を探すか。
そう改心をして
改めて辺りを見渡した。
すると、
「ん?店、か?」
少女を追い掛けてしか居なかったせいか
全く回りを見ておらず
気付けば、柴田の前に
七辻屋という店が建っていた。
「へぇー、気付かなかったな。」
休憩も兼ねて夏目への差し入れでも
買ってやろうか、と
柴田はその場に立って店の方へと足を進めるが・・・
「 こら、ダメだって先生!
夏目先輩に怒られちゃうっ!」
「・・・?」
今しがた覚えたばかりの声が聞こえ
柴田は不意に足を止める。
ましてや、
聞き違いで無ければ
自分の探している人物の名すら出ている。
恐る恐る、声のする店裏へと
柴田は気配を消しながら近付いた。