第17章 ◆花イチ匁
そして
さなは静かに瞼を閉じ、
その直後にぐらりとその体が傾く。
瞬間、
さなの背後から真っ白の透けた体が
宙へ飛び立った。
「 っさな!」
倒れるさなを咄嗟に支え、
夏目は飛び立った空へと視線をあげた。
『 遊んでくれて、アリガトウ。』
それは、
さなから飛び立った真っ白な体とは正反対に
暖かいお礼の言葉。
『 おまえは、
レイコと違って優しいんだね・・・夏目。』
「 ・・・?
レイコさんを知っているのか・・・?」
実体は無いが聞こえる妖の声。
それはさなと殆ど良く似た声で伝えられる
亡き祖母、レイコとの比較だった。
「 ・・・昔、
ワタシがまだ実体のあった頃
仲間と遊んでいた時に
レイコから勝負を挑まれた事があるの。
遊びで勝負をするのが好きなワタシだけど
名を奪われる、と噂を聞いていた
レイコの勝負は直ぐに断った。
それから、年月が経ち、
・・・仲間が消えて、
ワタシも独り尽きようとしていた頃
思い出したの。
レイコとの勝負は
楽しいものだったのか、と。
そう思い耽って
林の中をさ迷っていたら
遊んでいた頃の記憶が
念となり、影となって現れた。」
「 それが、
俺達が見えたあの花一匁、だったのか。」
夏目は
腕の中でまだ動かずに居る
さなに視線を落とし、言葉を零した。
「 えぇ、その通り。
仲間との勝負で一番好きだったの、花一匁。
懐かしんでそのまま見ていた。
そしたら、
強い妖力を感じ、惹き付けられるように
体が動いた。
・・・その先に、レイコが居たの。
そして、勝負を挑もうものなら
もう既に仲間が沢山・・・。
よく見れば、
レイコとは少し変わった雰囲気の娘だった。
力も無いワタシは
最後の勝負をしたくて
レイコに似たその娘に
分からないように憑いた。
そして、娘の記憶を所々操作しながら
娘の力で全員此処に集めた。」