第17章 ◆花イチ匁
その瞬間、
ゆらゆらと揺れ夏目に近付いていた暗闇は
ピタリと動きを止める。
「 ・・・?、」
暗闇の動きが読めない今、
夏目はごくりと生唾を飲み込み
目付きを鋭くさせた。
そして、
再度暗闇へと問う為
口を開く。
「さなを、皆を
返してくれ、
っ・・・?」
夏目が暗闇に対して言葉を繋げる最中
ぴたりと動きを止めていた暗闇が
うねうねと動き始めた。
その動きは
最初は小さく、
徐々に激しい動きと変わり
その場から移動はしていないものの
自由自在に変形させていた。
「マケ・・・テ・・・クヤシ・・・
ハナ・・・チ、モン・・・メ・・・」
「 ・・・っ、!」
先程聴こえた歌声は
更にボリュームを増して夏目の耳に届く。
夏目はその場から動けず、
いや、動く訳には行かないのだ。
ー・・・皆を、助けないと。
その思い一つを胸に
ぐっと歯を食いしばる。
そして、
「 皆を、返せ・・・!」
少し大きめに声を上げて
夏目は手を伸ばした。
真っ暗な教室で
嫌な空気が立ち込める。
普通ならば
立っていられない程のこの妖気に
夏目は臆することなく
その手を暗闇に目掛けて伸ばした。
それは、暗闇と云うよりも
中に閉じ込められているさなに向けて。
「 ・・・う、っ?!」
伸ばしたその手が
暗闇に触れようとしたその既で
その暗闇から
無数に伸びる何か。
それは生きているかのように動き、
夏目が伸ばした手へと
しゅるりと巻き付いた。
「 ・・・ぅわっ!」
巻き付いたその暗闇の黒い手のようなものは
夏目の腕に巻き付き
そのまま夏目の体全体へと回り
その体を軽く持ち上げてしまった。
「 ぅ・・・あ、っ!」
そして、
そのまま暗闇の中へと
引き込んでしまった。