第17章 ◆花イチ匁
「 さな!逃げろ・・・っ!」
「!」
その夏目の声が届くが早いか
暗い影は
振り返るさなを一瞬にして
暗闇へ呑み込んでしまった。
「 さな!」
しかし、
ズルズルと嫌な音を立て
さなを呑み込んだその暗闇は
徐々に教室内へと入ってくる。
「 ・・・え、?」
まさか、その暗闇が入ってくるなど
想像もしていなかった夏目は驚き
フリーズしてしまう。
だが、そんな事はお構い無しに
人三人分程の大きさの暗闇は
中の荷物をドサドサと崩しながら
確実に夏目の方へと近付いていた。
「 なん、だ・・・?」
ずりずりと近付く暗闇は
すぐに夏目の目の前まで迫って来る。
夏目はその暗闇を見上げ、
「 ・・・さなを、返してくれ。」
いつもより少し低い声色で
暗闇に向かって発した言葉。
目の前にある暗闇は
中にさなが呑まれた事も
見ていなければ分からない程真っ黒だ。
中の状態が分からない今
無闇に攻撃する事は夏目自身、避けたい。
ー・・・こんな言葉で聞いてくれるか
この暗闇は一体何なのか、
それさえも分からないが
夏目は目を離さずに暗闇を見上げていた。
・・・すると、
「カ-ッテ、ウレシイ、ハナイチ・・・モンメ」
微かに聞こえる、
暗闇から漏れる歌。
「 ・・・花一、匁?」
それは、はっきりと夏目の耳に届いた。
帰りにさなと一緒に聞こえた
子供たちの遊ぶ歌声。
夏目はぐっと拳を握ると
表情を険しくさせ
「 ・・・皆を、返してくれ。」
更に低い声色で
ゆっくりと暗闇に向かって発した。