第17章 ◆花イチ匁
ガ、・・・ガラッ。
動きの悪い引き扉を
夏目がゆっくりと開ける。
使われなくなったのはいつ頃か不明だが
それなりに年期の入った重い扉は
動く度に埃が舞い落ちる。
「ゲホッ」
「ケホッ」
人一人入れる程に扉を開けた所で
夏目がその手を離すと
どさりと落ちる大量の埃。
思わず噎せる夏目とさなは
互いに目を見合わせ
無言のまま頷いた。
そして、
夕暮れというのに一切の光も入らない
真っ暗な旧視聴覚室へと視線を向けるも
中はもちろん、何も見えない。
真っ暗で荷物が散乱している教室には
その広さしか
二人には確認する事が出来なかった。
二人は目を細めたまま
夏目はその教室へ
一歩足を踏み入れた
その瞬間ー・・・
「 え、・・・」
強い力で掴まれる夏目の足。
そして、
「 う、わっ・・・!」
そのまま勢い良く
奥まで引っ張られる。
「 先輩・・・!」
「 ぅあっ、!
き・・・来ちゃダメださな!」
ずりずりと早い速度で引き摺られる。
背後で夏目を呼ぶさなへ
何とか声を上げると
その声が届いたのか、
もしくは先程の約束からか、
ちらりと振り返る扉方向には
驚愕の表情で、
でも入るのを踏み止まっている
さなの姿を確認する事が出来た。
その姿を見れて少し安心する夏目は
障害物に当たりながら尚引き摺られ
扉から大分と離れた所で
漸く解放された。
「 いっ、てて・・・」
解放された足を擦りながら上体を起こす。
暗闇に少し目が慣れ、辺りを見渡せば
何となく教室内の状況が分かってきた。
「 荷物が壁みたいだ・・・。」
そう、高く積まれた荷物は
壁のようになっており
複雑な並べ方から
まるで迷路のようになっていた。
「 先輩・・・!
大丈夫ですかっ?」
荷物を見上げている夏目に届く
遠くから聞こえるさなの声。
「 あぁ!大丈夫だ!」
ふと振り返ると
扉から離れた夏目の場所からでも確認出来る、
扉から覗くさなの姿、
・・・と、
そのさなの背後に佇む真っ暗な、
影。
「 さな・・・っ!」