第17章 ◆花イチ匁
「 ここ、だな。」
「 ・・・はい。」
夏目とさなは
高さの違う肩を並べ
旧視聴覚室の入口前に横並びに立ち、
入口から漏れるように強く放つ
嫌な気配を互いに確かめ合った。
「 俺が先に入るから、
さなは俺の後ろに居てくれないか。
逃げ道を確保しておいて欲しいんだ。」
「 分かりました。
先輩、・・・気を付けてくださいね。」
入口の扉に手を掛ける既で
夏目がさなに話し掛ける。
〝逃げ道を確保〟
それは、何かあれば
さなだけでも逃げられるように。
そんな意味合いが込められている
なんて事は
夏目と居る時間が長い程
分かってしまう、
彼の少し寂しい優しさである。
そんな言葉の意味に
気付いてしまったさなも
夏目の有無を言わせない根気に
逆らう事は出来ず、
掛けられる言葉を選び
最大限、夏目の身を案じた。
「 ・・・大丈夫だよ。」
さなが不安気に
夏目を見上げていたせいか、
その視線に気付いた夏目が
さなを安心させようと
ふっと微笑んで言葉を掛ける。
そして、
「 俺は・・・、
・・・さなが居てくれると
何故か上手くいくんだ。
だから、大丈夫だよ。」
頬を紅く染め、少し唇を噛みながら
躊躇うように繋げる夏目の暖かい言葉。
「 夏目先輩・・・。」
そんな言葉と共に
夏目から笑いかけられ、
何も言い返せないさなは
自然と
先程の不安が薄れている事に気付く。
そして、
さなも頬を染め微笑むと
「 私も、です。
夏目先輩が居てくれるから
それだけで安心しきっちゃう。
・・・でも、その夏目先輩に何かあったら
って思うと不安で堪らないんです。
だから、無理しないでください、ね・・・。」
さなの言葉に
夏目は、分かってるよ・・・そう微笑んで
ドアに手を掛けた。