第17章 ◆花イチ匁
「 何っ?」
「 どうした?さなちゃん、」
さなの叫び声に
実代と北本が直ぐに声を掛ける。
「 ⋯え、えっと、⋯その」
先程から聴こえていたのは
恐らく妖の声。
思わず上げてしまった自身の声に
友人と先輩に心配の目で見られ
戸惑いを隠せないでいると
「 虫だよ。
さっきさなの目の前を横切っていったんだ。
それで驚いたんだろ?」
救いの手を差し伸べるが如く
夏目がほら、あそこ、と
空に向かって指を差しながら
その場の皆の視線を空に向けた。
「 どこだー?」
「 見えないわよ?虫だなんて。」
その間、
誰の目にも見えない一瞬。
夏目はさなの頭に
ぽんぽんと手を乗せた。
「 夏目、先輩⋯。」
「 何か居る。」
さなが夏目を見上げると
夏目は真剣な表情で
皆とは反対の茂みへ視線を向けていた。
「 ⋯?」
その夏目が向ける視線の方向へ
さなも目を向ける。
茂みの向こう、
小さな影が複数
ゆらゆらと揺れ回っているのが少し見えたが
「 おい、虫なんて見えなかったぞ?」
北本が夏目の肩に手を乗せ
二人の視線を奪った。
「 あぁ、ごめん。
すぐに飛んでいってしまったんだ。」
夏目がはっと北本の方へと振り返り
なんとか誤魔化す。
「 まぁ、虫だって出てくるわよ、
こんなにも暖かくなった事だし。」
「 俺に対しての悲鳴かと思ったぜ⋯。」
夏目がさなのフォローの為に
ついた嘘のお陰で騒動は収まった。
「 いーや?
虫ってのは嘘で
本当は西村への悲鳴だったかもな?」
「 何っ?
お前らがセクハラだの
変な事言うからだろー?
俺は善意で発言してんだ!」
「 ほとんど下心な癖にー。」
いつもの西村と北本のやりとりが始まり
「 まぁまぁ⋯」
宥めようと間に入る夏目だが
「 元はと言えば夏目、お前だって!」
「 えええ、い、痛いって!」
巻き添えを食らう羽目になるのはいつもの事。
そんな様子に
「 男子って本当、幼稚よね。」
笹田が溜息混じりに呟いた。