第4章 ◆二人きり
「あぁ、
私達は元々、町を3つばかり東に挟んだ山に
静かに暮らしていた。
標高も高いだけあってねぇ
それは、それは、眺めも良く
あまり、人間も来ないような
妖には絶好の場所だったのだ。」
刹凪が昔の思い出に浸るように話し始める。
「しかし、
私達が季節の物として好んでいた土筆が
咲かなくなってね。
どうにかしてまた咲かぬものかと思い、
山に居る妖に聞いていくと
土筆を咲かせるという妖がここに居ると聞いて
2人で来てみたのだ。」
もう、どれほど前だったのかも忘れたがな。
と寂しく笑いながら付け足すと
その時にたまたまレイコに逢い
土筆を咲かせるという妖に頼んでやるから勝負しろ
と提案され、名を書かされたのだと言う。
「それで、土筆は咲いたのか?」
夏目が、その先を問うと
刹凪が少し嬉しそうな表情を見せ
「あぁ、前に咲いていたように
沢山の土筆が咲いたよ。
何かレイコに礼をせねばと
またもここに来たのだが、
どれほど探してもレイコの姿は無く、
名を呼ばれることも無かったのだ。」
名を呼ばれたら、必ず出て来てね。
そう約束したのに…。
と表情を曇らせながら呟く刹凪をみて
夏目は他人の事ながら
身内である祖母のしていることに
申し訳無さを感じていた。
「私達が住んでいた山を離れて
長い年月が経ち、ようやく
今日、レイコを見つけられた。
早くに帰らんと、
もう、土筆が咲き終わってしまう。
レイコ、名前を呼ばぬなら、
返して欲しいのだ。」
急かすように
じわりと近付く刹凪に
夏目が他の方法を考えていたその時、
少しの風が吹く中
少し明るくなった室内に
異変を感じ
背後のさなをちらりと見やると
そこには
体制を整え、
友人帳をパラパラと捲らせながら
名の返還を始めるさなの姿があった。