第17章 ◆花イチ匁
キ-ンコ-ン カ-ンコ-ン
放課の合図のチャイムが鳴り響く。
今日一日が何も無かった、と
少しだけ胸を撫で下ろしながら
夏目は自身の鞄を持ち席を立った。
「 なーつめっ。
一緒に帰ろうぜ。」
そんな夏目にタイミング良く
肩をタッチするのは西村で、
いつものように北本も一緒だ。
「 あぁ、帰ろう。」
いつもの遣り取りに
夏目はふっと微笑み返事をして
西村と北本の二人の後に付いた。
「 最近、暖かくなったよなぁ。」
「 そうだよな。
梅の蕾もちらほら見るし。」
西村と北本の会話に
夏目がそっと校舎横にある樹木へ視線を向けた。
「 あ⋯本当だ、蕾が付いてる。」
二つ三つ、
と付き始めた梅の蕾が視界に映ると
夏目はその場に立ち止まって呟いた。
「 もう、春だな。」
「 春と言えば、恋。
彼女欲しいーっ!」
「 なんだよそれ、
西村はいつでも彼女欲しがってるだろ?」
「 まぁな!
俺は紳士だから、来てくれる子なら
誰だって歓迎するんだ。」
「 へぇー、
お、そんな事言ってたら
噂の女子が来たぞ?」
「 なにぃっ?
どこだ?」
「 ねぇ、ねぇ!何してるの?
一緒に帰りましょうよ!」
「 ⋯って、
笹田かよー!」
「 ちょっと!それどういう意味よ?」
「 ははは、
西村が笹田を歓迎するってさ。
良かったな、二人とも。」
「 良くねぇ!」
「 何の話ー?」
そう言って逃げる西村に
事情を聞くべく追いかける笹田。
その傍らに笑いこける北本。
オレンジ色に染まった校庭で賑わう
その光景を夏目は見守った。
「 ⋯楽しそうですね?」
突如背後から掛けられる声に
ビクつくまで⋯。