第16章 ◆雨乞儀式
思わず立ち上がったさなは
多少蹌踉めきながら
日照雨様と女狐妖の居る場所まで掛ける。
「 さな!」
その後ろでさなを止めるべく
夏目が手を伸ばすものの、
その手はさなに届くこと無く
真下の畳をついた。
「 日照雨様⋯、!」
さな本人にも夏目の声は
聞こえておらず、
散りゆくように舞い上がる
黄色く光る蝶の群れの中に
さなは跪く。
「 ⋯さな様」
女狐妖が蝶を見上げていた視線を
真横のさなへと向けた。
と同時に
ー⋯ガバッ!
「 ⋯っわ!」
跪くさなに覆い被さるよう
女狐妖は抱き竦める。
「 ⋯ぇ、あの⋯、っ?」
「 今だけ、⋯頼む。」
目の前を覆われ、
身動きと視界を奪われたさなは
困惑の声を上げるも、その声は
女狐妖の零す様に囁かれた短い言葉に遮られた。
しかし、
「 さな!」
その状況を目の当たりにして
夏目が黙る筈もなく、
「 待て、夏目。」
「 ⋯?」
「 儀式の最中だ。」
「 けれど、さなが。」
「 恐らく、あの蝶が舞い切れば
雨乞いの儀に変わるだろう。
夏目、お前は
さなが崩れないよう
ここで妖力を分けてやるんだな。」
「 分けるって?」
「 なに、此処に居て
さなの事を想ってさえいれば
お前なら出来るさ。」
ニャンコ先生に止められ
眉間に皺を寄せながら
夏目はもう一度その場に腰を下ろした。
「 想い⋯。」
ぼそりと呟き
膝の上で拳を握る夏目を
ニャンコ先生は
少し安心しながら見守っていた。
「 ⋯、蝶が消えるぞ。」
ニャンコ先生の言葉の通り
数匹の蝶が
空へと舞っては消えていった。