第4章 ◆二人きり
「レイコ、ありがとう。
お前はもう、幸せなんだね。」
力なくその場に倒れている
目を閉じたままのさなに
刹凪はそっと近付き膝まづくと
優しくその頬を撫でた。
刹凪の中のレイコの記憶が
鮮明に思い出される。
「レイコ、起きろ。」
目を覚まさないさなを見て
刹凪が静かに目覚めを促していたその時
廊下からバタバタという
騒がしい音が聞こえたかと思うと
バタンと勢い良く扉が開く。
「さな!」
その掛け声に刹凪が静かに振り向いた。
「お前はレイコの孫か。
今、レイコに名を返してもらった。
レイコはひどく疲れてるようだ。
もうひとり、私の友が名を返して貰おうと
同じくして来ているのだが
肝心のレイコが目を覚まさない。
…レイコの孫よ、
レイコを起こしてやってはくれんか。」
刹凪のその言葉に夏目は
ぐったりと横たわるさなの元へ駆け寄ると
上体を少し起こしさなの額に手を当てる。
「…ひどい熱だ。
こんな体では、しばらく無理だ。
その友とやらにも日を改めるよう
伝えてくれないか?」
夏目のその提案を聞き
刹凪ははっと息を呑む。
「駄目だ、今日でないと駄目なのだ。
明日には友と共にこの地を旅立つ。
だから、
急いでレイコを起こしてくれぬか。」
刹凪の懇願ぶりに
夏目が反論しようとした時
「 夏目…先輩…」
夏目の腕の中でさな静かに呟くと
ゆっくりと起き上がり
「 大丈夫です。…できますよ。」
そう力なく笑うと刹凪に向き直り
「 刹凪、お友達を呼んでください。」
友人帳を手に取り、妖が来るのを待った。
「おぉ、レイコ。
やってくれるか。
詩滝(したき)、レイコが名を返すそうだ。」
刹凪は、全身で喜びながら
詩滝に呼びかけていた。
そして、ひやりとした妖の気配を感じると同時に
静かに扉が開いた。