第16章 ◆雨乞儀式
「 さな、大丈夫か?
また帯の締め付けか?」
「 うむ、この鼻緒にも
術が掛けられているようだな。」
「 ・・・え、」
へたり込むさなの隣に屈み
優しくその背中を摩る夏目が
心配の眼差しでその表情を伺えば
トテトテと歩み寄るニャンコ先生が
クンクンとさなの足元を嗅ぐ。
「 先生、
帯だけじゃなく下駄もか?」
それは
綺麗に刺繍も施された真新しい下駄。
夏目が少し大きめの声を出せば
冷や汗を滲ませるさなは
ニャンコ先生の言葉に更に気が遠のく。
「 おい、
この着物と下駄を用意したのはお前か。」
そして、ニャンコ先生が
睨むようにして日照雨様へと視線を上げる。
「 いえ、これは・・・。
使用人に任せてあります故、
私は嫁役の衣装等は存じ上げぬ。
しかし・・・、
このような悪事を働く者が居たとは、」
ぐっと拳を握りしめて
俯き加減に話す日照雨様が
その足をゆっくりと進ませ
さなの前で立ち止まり、屈んだ。
「 誠に、申し訳ないさな殿。
私の知らぬ間でこのようなこと・・・
私の至らない限りだ。」
日照雨様がそっと
さなの帯へ手を触れ
撫でるようにそのまま
足元の下駄へと滑らせた。
そして、
ヒュウ、と何処からともなく吹く
冷たい風が頬を掠め
夏目とニャンコ先生が
目を細め顔を背けると
チリー・・・ン、
微かな鈴の音が響き
夏目とニャンコ先生が目を開けた時、
「 え、っ?!」
「 何っ!」
夏目とニャンコ先生の目の前には
暗闇の中ほんのり月明かりに照らされた
壁と冷たい床。
先程まで居た筈の
さなと日照雨様は消えていた。
「 さな?!
何処だ、っ?」
「 チッ。
やはりアイツか。
・・・ 日照雨、」
夏目がその場に立ち上がり
辺りを見渡し、飛び出す既で
ニャンコ先生が呟いた言葉に
その足を止めた。