第16章 ◆雨乞儀式
夏目の前を歩くさなと言えば
先程から会話には参加せず
只管に回りをキョロキョロと見渡している。
恐らくは女狐妖を探す
若しくはそのヒントに成り得る何かを
必死に見つけようとしているのだろうと
その場の三人は察していた。
「 ・・・」
ー・・・いつも一生懸命だもんな。
そのさな姿に自然と表情が緩む夏目は
張り巡らされた気を少しだけ解いていた。
「 そういえば、日照雨様。
貴方にだけ社から道標が伝えられている
と聞きました。
今も聞こえているんですか?」
目の前のさなを見つつ夏目は
ふと、疑問に思った事をそのまま
視線を隣の日照雨様に向けて放った。
「 ・・・えぇ。
社に入ってから私にだけ
社の声が聞こえております。」
一瞬の躊躇いの後、優しい声色のまま
ゆったりと答える日照雨様だったが、
「 ・・・え?」
隣を歩くさなが急に声を上げた。
「 ・・・?」
「 どうした?さな、」
いきなりの声に
その場の三人の視線を集中させてしまう。
「 えぁ、いや・・・あの、
もう、聞こえていたんですね。
一本道ですし、
まだ先の方なのかと思ってて・・・はは。」
アタフタとしながら
少し言いづらそうに答えるさな。
言われてみれば
先程から歩いている所は一本道である。
先を見ても視界の届く範囲では
一本道が続いており、声が無くとも進められる道。
「 そういえば、そうだな。」
さなの言葉に成程、と納得する夏目には
さなが声を上げた理由が
別の意味である事には気付かなかった。
「 声は、社が自我を持つ印。
社に入ればずっと聞こえるものなのです。」
日照雨様は二人の言葉に
ふふ、と微笑み言葉を返した。
モド・・・レ・・・
・・・イクナ・・・
「 ・・・っ」
さなに聞こえるこの声は
果たして日照雨様の聞くものと同じものなのか、
もしくは
さなだけに聞こえてしまう声なのか。