第16章 ◆雨乞儀式
「 ⋯はい。」
夏目の言葉に少し考え出したさなの答え。
もし試練であるなら、
ここまで来て
このまま辞めてしまう訳には行かない。
その覚悟は地上で決まっていたものだ。
「 私に頑張らせてください。」
覚悟故の少しの笑顔。
その笑顔をさなが夏目に向ければ
夏目も同じように笑って
分かっていた回答に少し安堵したような
そんな表情だった。
そして、
「 社に到着致します!」
箱の外からタイミング良く聞こえる
子狐妖の甲高い通った声が響く。
ゆっくりと止まる箱の窓から
そっと外を覗けば
暗闇の中、煌々と明るく光る
大きな社の入口が見えた。
「 わぁ⋯!」
「 ⋯凄いな。」
思わず夏目もさなも声を漏らす程
その灯りは何百もあろうか
蝋燭の灯。
何も無い雲海の地で
先ほど歩いていた際に
この灯りが何故見えなかったのか疑う程に
その入口は明るく照らされていた。
「 お降り下さいませ。
儀式の再開で御座います。」
夏目とさなが窓から顔を出している間に
箱の扉を開け待っていた使用人である女狐妖が
少し声を大きくさせて二人へと向けた。
「「 あ、すみません。」」
少し苛立ちさえ感じ取れる女狐妖の声に
反射的に謝り、扉をくぐる二人。
⋯しかし、
先に降りた夏目に続いて
さなが降りようとした時だった。
ーバチンッ!
「 ぅッ⋯!」
まるで電流が流れたような激痛が
さなの腹部に走った。
その音はさなにしか聞こえないものか。
女狐妖も目の前の夏目も
音に反応している素振りは無い。
さなは
目の前も真っ暗になる程の痛みに体が揺れ
箱の縁部分で足を滑らせ
上半身から外へ倒れ込んだ。
衝撃に備え、
微々たる力で体を強ばらせると
「 さな!」
想像していたよりも柔らかい衝撃に包まれ、
聞き慣れたさなの名を呼ぶ声が
すぐ近くに感じられた。