第16章 ◆雨乞儀式
果たして、最高端の社とは
いつになったら見えて来るやら。
本当にその建物があるのかも疑いつつある程
見渡す限りは何も無く。
暗闇に飲まれつつある視界の中で
社を探す事も困難となる。
一刻も早く社に着きたいさなは
薄らと冷や汗が滲んでいた。
何とか、気分を誤魔化そうと
回りを見渡しても何も無く
地上ならば何かしら山々の自然の音に
耳を澄ませられるが
どれだけ耳を研ぎ澄まさせても
さなの耳に届くのは
チリンチリンと一定のリズムで
鳴らされている鈴の音。
風さえも隔ててしまう海雲の地だから
その鈴の音も響く事はなく
直ぐに消え去る。
そうした中、
最後の方法に行き着いたさな。
「 ースゥ⋯ーハァ-⋯。」
それは、
誰にも聞こえぬよう、繰り返す深呼吸。
しかし、
「 ⋯ぅ、っ」
息を吸おうにも、
帯の締め付けからか
海雲の地で空気が薄いのか
満足には吸えず、中途半端に吸った空気を
ゆっくり吐き出しているだけ。
ー⋯あんまり、意味無いかも⋯。
深呼吸を繰り返した所で
足の痛みも締め付けの苦しさも
治まる事は無い。
寧ろ、余計に
気分が悪くなったような気さえする。
「 ⋯ハァ、」
ー⋯もちますように、もちますように。
儀式が終わるまで。
頑張れ、私。
頑張らせてください、神様。
誰にもバレないよう、
小さく溜め息を零し
縋る思いの
最後の方法からの最終手段は
心の中での神頼み。
隣に本物の神が居るというのに
その神には打ち明けられず
架空の神へと願い続けるさなだった。
「 フ⋯っ、」
神頼みもやはり無駄か。
さなが視界すらもボヤけてきた時だった、
「 いつまで歩かせる気だ。
まだ着かないのか。」
恐らく、さなと夏目の心も入ったその言葉。
「 ニャンコ先生⋯」
救いの声は、やはり
この海雲の地では幾度となく
緊張を解してくれるある種の神的存在、
ニャンコ先生だった。