第16章 ◆雨乞儀式
ーーチリン、チリン⋯ーー
風の音すらも隔てる海雲の地。
陽はすっかりと落ち、
真っ青だった空もオレンジを経て
深い紺へと染まりゆく中
小さな灯りを幾つも並べ歩く一行。
ーーチリン、チリン⋯ーー
鈴の音だけが鳴っては消え
ゆっくりと、
一歩一歩噛み締めるように進む
雨乞いの儀。
「⋯」
かれこれ、
この超低速で歩くこと30分越え。
誰も言葉を発すること無く
ただ、ひたすらに歩き続けている。
そして、その中でも
たかだか30分歩く程度で根を上げたいのは
この中では二人。
一人は
最近太り気味となっているニャンコ先生だが、
夏目の心地よい歩く速度に
ウトウトと肩先で頭を揺らしている。
そして、もう一人は
普段全くと言っていいほど和服など着ない
さなである。
慣れない着物に
立ち上がる事すらフラついて
夏目に支えてもらっていたのは記憶に新しい。
「 ⋯っ、」
胸部から腹部を着物によって圧迫され
尚且狭い歩幅を履き慣れていない足袋に
これまた履き慣れていない真新しい下駄。
鼻緒まで小さな花が刺繍されていて
それはそれは高価な代物なのは
見慣れないさなでも分かる程。
⋯だが、
普段ローファーを履いて
休日は殆ど
スニーカーか短いブーツを履いている
そんなさなにとっては
足の指を無理矢理に拡げられ
更に足の指で吊るように持ち上げて歩く
そんな下駄など身に着け
5分も歩けば当然のごとく痛みは襲ってくる。
⋯しかし、
ここで足が痛い等文句を垂らせば
儀式が遅れてしまう。
もしかすると、
中止なんて事も有り得るかもしれない。
そんな最悪の状況まで想定すると
我慢するしか選択肢は無かった。
「 ⋯っ(はやく、着いて⋯!)」
言えない痛みだからか、
さなが願うのは
一分一秒でも早く最高端の社に着く事
それだけだった。