第15章 ◆狐ノ嫁入
黒い袴を纏った夏目が
ニャンコ先生の隣の椅子へと腰掛ける。
「 ・・・。」
ー・・・さなは一体どんな衣装なのだろうか。
クルクルと姿見の前で回る
ニャンコ先生を見ながら
ふと、考えるのはさなの事で
さなと別れてから三十分程経過している今
夏目は視線を壁へと向けた。
ー・・・そろそろ、さなも
身支度が終わっているかもしれない。
壁に掛けられた時計を見て、
咄嗟に視線を扉へと移せば
コンコンと控えめなノックが
部屋中に響く。
「 さな様の身支度が整いましたので
祭場へお越しください。」
扉の外から掛けられる声は
女性だろうか。
しっとりと落ち着いた高い声色。
ー・・・さなに付いた使用人か?
「 承知致しました、私共もすぐに。
・・・それでは、
夏目様、達磨狸殿、参りましょう!」
扉の向こうへと返事をする子狐妖が
いそいそと扉まで行き
夏目とニャンコ先生に号令を掛ける。
心做しか
張り切っているようにも捉えられる
子狐妖の掛け声に、
夏目もニャンコ先生も腰を上げて
子狐妖の後ろに付き
先程通った廊下の奥へと進んだ。
「 祭場というのは?」
「 儀式の行われる場所でございますよ。
それはそれは美しい、
とても神聖な場所なのです。」
長い廊下を歩く道中。
先程の女使用人の言葉が気になり
夏目は目の前を歩く子狐妖へ
質問を投げれば、
子狐妖はニコニコと振り返り
嬉しそうに答えた。
「 へぇー。
そんな所へ行けるなんて
ちょっと楽しみだな。」
「 一般の妖すら立ち入る事は出来ません。
是非、堪能して下さいませ。
・・・あ、そろそろ祭場へ着きます。
さな様も後に来られるでしょう。
夏目様はさな様のお隣で
エスコート役をお願い致します。」
「 あ、あぁ・・・分かった。」
廊下の最端であろう扉までの道を歩きながら
子狐妖が口早に説明する。
そして、扉の前まで来ると
その大きな観音扉を子狐妖が開け
奥の祭場へと三人は上がった。