第14章 ◆誕生ノ日
「 レイコさんは既に亡くなっているの。
私はレイコさんの孫。
名前、返してあげるから
・・・だから押さないで。」
ぐいぐいと妖に押され
遂には部屋の外へと出てしまう
さなと妖の上体。
さなは友人帳を見せながら
説明をすれば、すぐ様
名の返還体制に入る。
ー・・・10分以内だから、ね・・・。
そしてさなの脳内で思い出されるのは
田沼と約束したタイムリミット。
あれから恐らく5分は経っているだろう。
早く名前を返して戻らなければ
夏目に知られ心配を掛けさせてしまう。
その焦りを隠しながら
さなは目の前の妖に集中した。
そして・・・
「 紫樽(シタル)、貴方に返します。」
さなの吹く息とその言葉によって
ふっと空中に飛び立つ紫樽の妖文字。
それは光りながら
すぅっと紫樽の額へと吸い込まれていった。
「 ありが、とう・・・、レイコの孫・・・
・・・おかげで、解放された・・・。
元気に、なれた・・・。
お前は、レイコと違って
可憐なのだ・・・な。
美しいものは好きだ・・・。」
「 ・・・ふふ、ありがとう。紫樽。」
すりすりと
名を返された今でも
さなに擦り寄る紫樽は
嬉しそうに微笑んだ。
「 レイコ、の孫・・・。
名前、は・・・?何と言う・・・?」
「 さな、だよ。
・・・ゲホッ。」
さなの体にペタペタとくっつく紫樽。
その紫樽に名を教え
早くその場を去ろうと
さなが紫樽を押し退ければ
急に来る息苦しさで
思わず口を抑える。
「 さな・・・か。
ありがとう、・・・さな。
私は・・・美しいものは好きだ。
美しいものに触れると・・・
とっても・・・
・・・元気になれる。
さな・・・
お前は、
とっても・・・美味しそうだね・・・。」
「 ・・・ゲホッ・・・ケホ。」
擦り寄りペタペタと触れる紫樽の力で
遂にその場に崩れるさな。
「 美しいものが欲しい・・・。」
そしてさなに覆い被さる紫樽。