第14章 ◆誕生ノ日
「 ・・・ハァ、ハァ・・・!」
ー・・・はやく、急がなきゃ・・・。
夏目と西村と北本、
そして田沼と多軌が中庭でワイワイと
騒がしく楽しんでいる間
こっそりと抜け出し
田沼の家の中を走るさなは
その腕にしっかりと友人帳を抱えていた。
・・・先程、夏目と共に感じた妖の気配。
あれは紛れも無く友人帳に名がある妖の声。
西村と北本が夏目に話しかけている隙に
「 あの、夏目先輩を
引き留めていて下さい。」
夏目の言動から妖関係だと察していた田沼に
さなはそっと耳打ちをしていた。
しかし、
田沼もそこまで薄情ではないようで。
「 まさかさなちゃん一人で行くのか?
・・・幾ら何でもそれは危険過ぎる。
行かせられないよ。
夏目に言わないと・・・」
今にも飛び出していきそうなさなの腕を掴み
時折夏目の方へ視線を向けながら
田沼はさなを止めていた。
「 今日だけ・・・。
今日は・・・
夏目先輩にとっても
皆にとっても特別な日だから、
今日だけでも、妖に邪魔されない
皆との時間を楽しんで欲しいんです。
・・・だから、お願いします。」
少しだけ声を震わせながら
田沼を見上げるさな。
「 ・・・はぁ。
そんな目をされたんじゃ、仕方ないな。」
そう、溜息混じりに小さく零せば
田沼は掴んでいたさなの手をそっと離した。
「 ・・・けど、
無理したら駄目だぞ?
危ないと思ったら迷わずこちらに逃げるんだ。
・・・それと、
10分経ってもさなちゃんが戻らなかったら
俺が夏目に言う、いいな?」
視線をさなに合わせて少し屈む田沼が
さなの目を見て真剣に放つ言葉。
その言葉を受けてさなは深く頷いた。
「 ありがとうございます・・・!」
そう小さく頭を下げてさなは
音を立てずに屋敷内へと走り去って行く。
ー・・・参ったな、あの子の目には敵わない。
さなの姿を見送って
深い溜息を吐く田沼は
夏目の元へと向かった。