第14章 ◆誕生ノ日
「 ・・・ありがとう、田沼。」
「 気にするなよ。
俺こそ、出来る事はとても限られていて
小さい事しか力になってやれないけれど、
それでも
夏目に頼ってもらえる事が嬉しいんだ。
・・・特に、今日のような特別な日は。」
夏目が強ばらせていた表情を緩め礼を言えば
田沼がニコリと笑って話す。
最後に放つ言葉は
本人はもう忘れかけていた
夏目の誕生日、という事を
遠回しに知らせてくれる合図でもあった。
「 あぁ、助かるよ、田沼。」
「 なら、皆待ってるし行くか。
・・・それと、それ。
はやく食べないと渋滞するぞ。」
「 ・・・えっ。」
黒いコンロを取り囲む皆の輪に入るべく
田沼が先に戻ろうとする矢先で
田沼が顔だけを夏目に振り返り
視線を夏目の手元に向ける。
そして、田沼の移動する視線は
備えられたテーブルに置かれる皿へと止まった。
「 ・・・なっ?!」
・・・それは、
既に二杯目となる肉の山の皿。
それが確りスタンバイされていて
ご丁寧に
〝祝!夏目用〟と書かれていた。
ただでさえ、
一皿食べられるか怪しい所。
夏目は顔を少し青くしながらも
皆からの優しさを感じ、
喜びを噛み締め輪に加わった。
「 みんなー、飲み物何がいいー?」
後ろから掛けられる声に
その場に居た全員が振り返る。
そこには複数の飲み物と
人数分のコップを盆に乗せて
中庭へと降りる多軌の姿。
「 さっすが!気が利くー!
お、俺は、
多軌さんが注いでくれるなら
何でも飲みます!」
「 なら、
お前はそこらの樹液でも飲んどけよ。
俺、コーラ!」
「 な、なんだとー?!
多軌さんに樹液搾らせる気かよ北本!」
「 セルフだっつーの!」
「 何ぃい?!」
先程の妖の声が聞こえたと思えば一転、
ガヤガヤと騒がしい空間で埋め尽くされた。
目の前の西村と北本のやり取りを
笑いながら眺める傍らで
全員均等にコーラを注ぐ多軌から
皆がそれぞれコップを受け取っていた。