第14章 ◆誕生ノ日
何処か憎めない多軌の笑顔。
それに釣られて
一つ返事でさなが多軌に駆け寄れば
多軌もまた嬉しそうに
昇降口まで足を進めた。
雨が降る空の下で
ゆっくりと日が傾き暗くなる。
さなと多軌は
ほんの少し高さの違う傘を並べて笑い合った。
多軌が少しだけ視線を落としさなを見れば
さなは少しだけ視線を上げて話す。
昇降口を出てからは
疎らに帰る生徒の中を
のんびり、とした足取りで
他愛も無い話に花を咲かせ
盛り上がる普通の女子高生の会話。
そして、
生徒が殆ど居なくなった河原に出た時に
多軌がふと、足を止めた。
「 ・・・?」
急に止まる多軌に合わせて
さなも足を止め振り返る。
「 ・・・でね、
さっき言った
話したい事、なんだけど。」
周りをキョロキョロと見渡しながら
小声で本題を話し始める多軌。
そして、誰も居ない事を確認した多軌が
さなの真横に来て
そっと耳打ちをした。
「 (・・・夏目くんの、
お誕生日の事なの。)」
「 お誕生日・・・。」
「 シィッ!」
「 ごめんなさいっ。」
多軌が小声で耳打ちしたにも関わらず
その言葉を普通のトーンで復唱するさな。
思わず多軌が人差し指を唇に当てれば
さなはすぐに頭を下げた。
そして、
今度は耳打ち無しで
多軌が小声のままで続ける。
「 田沼くんとも話してたんだけど
夏目くんをサプライズで喜ばそうと思ってるの。
だから、
さなちゃんも協力してくれないかな?」
ニコニコと笑う多軌のその表情は
心底嬉しそうに。
本当に誕生日を祝ってあげたいのだろう、
そう、誰にでも分かるほどの
笑顔を向けてくる多軌に
さなは深く頷いた。