第12章 ◆夜が明け
そして、的場も
名取と共に健司を背負うべく
名取に加勢する。
その姿を見た後、夏目は
ペタンと座り込むさなの前に跪いた。
「 ・・・さな、
一緒に行こう。
さなもその怪我じゃ手当が必要だし
健司さんの側に居てあげられるのは
さなだけだよ。」
「 先輩・・・。」
枯れることのない涙を流しながら
さなが夏目を見上げ小さく頷く。
その表情は、酷く疲れ切ったようなもので
血の気のない肌から
まだ薄らと出血している首元の傷が痛々しい。
「 ・・・立てるか?」
夏目が
涙で濡れたさなの目元を優しく拭い、
冷たいさなの手を取って
その場にゆっくり立たせた。
そして、
ニャンコ先生が待つ窓の際まで移動すれば
既に、名取と的場の手によって
運ばれた健司が
ニャンコ先生の上に力無く横たわっている。
「 ・・・先生、頼む。」
健司の後ろにさなを乗せ
その後ろで二人を支えるように夏目が乗ると
夏目はニャンコ先生に声を掛けた。
「 ふん、
精々落ちないよう、踏ん張るんだな。」
夏目の声に立ち上がったニャンコ先生は
誰に向かい放った言葉なのか
嫌味のような心配のような言葉を投げて
爆風を伴う勢いで窓から飛び出た。
「 ・・・。」
「 ・・・そんなに心配でしたら
周一さんも同行すべきでは・・・?」
ニャンコ先生が夜明けの海へと
飛び去った後を暫く見詰める名取に
軽く笑いかけて茶化す的場。
「 ふっ、よく言うよ。
・・・お前も一緒の気持ちなんだろう?」
その的場に鼻で笑う名取に
的場は小さな溜息を零した。
「 妖力の無い健司さんがどうなろうと
正直、私には関係ありません。
・・・しかし、
彼女の涙は、酷く痛む。」
遠い目で
ニャンコ先生が去った先を眺める的場に
名取も釣られて視線を向ける。
もう既に
ニャンコ先生の影はどこにも無い海景色。
「 はは、辞めておくんだな、あの子は。」
ー・・・敵わない想い人が居るから。