第11章 ◆人と家族
「羨ましいよ。
生まれながらにそんな
強大な妖力を持っていて・・・。」
グッと名取の胸倉を掴み
顔を近づける健司が
名取の耳元で囁くように言う。
「 ・・・ッ!」
しかし、健司が発したその言葉の中身は
嫉妬に限りなく近い邪念が含まれていて
名取は咄嗟に健司を突き放した。
そして、ふらりと
数歩下がって立ち直す健司に向かい
今度は的場が前に出る。
「何故、そこまで妖力に拘るのです?
力を失い祓い屋を廃業にした者達を
幾度と無く見ている貴方なら
割り切る事も可能な筈でしょう。」
さらっと一つに束ねられた的場の長髪が
術の行われた部屋の
割れた窓から吹き抜ける風で揺れ動く。
そして、
その長髪の横に待機する弓矢・・・。
それは的場の得意とする武器の一つで
的場は後ろ手にその弓矢を忍ばせ
健司に近付いていたのだ。
「!?」
その弓矢に気付き目を見開いたのは
先程、的場を庇い盾となった名取。
「 ・・・。」
此処で荒波を立てても
目の前の健司が何をするか分からない今、
名取は只黙って
的場の様子を伺いながら
健司へと視線を戻した。
「はっ、〝拘る〟・・・か。
お前達に分からないだろう。
・・・大切な者を失う気持ちが、
どれ程苦しいか・・・。
・・・妖者でも良いから
目の前にいて欲しいと願い
生きる辛さを・・・。」
ダラっと姿勢を崩して立つ健司が
目を細め、
その場に居る者全員を見渡しながら
ゆっくりと話し始めた。
「大切な、者・・・?」
初耳のような言葉に
名取が復唱をすれば
健司は無言のまま、静かに頷いた。
そして、
「あぁ、
若くしてこの世を去った
僕の想い人・・・
夏目レイコという名の女性だ。」