第11章 ◆人と家族
「 ・・・いい加減にしてください。」
「 ッ!!」
突如、的場の前に憚る一本の枝。
その枝により
健司が投げた花瓶が割られ
床に散らばったのは一目瞭然だ。
果たして
勢い良く投げられた花瓶より
強度が勝るのかは疑わしいが
その枝の向こうに鋭く光る
眼鏡の中の視線は構う事無く
しっかりと健司を睨んでいた。
「 ・・・健司さん、
これ以上は私も許せませんよ。」
踏まれる硝子の割れる音が響く廊下にて
いつもの笑顔を消して
健司に投げ掛ける低い言葉。
そんな人物の体中を
まるで、
驚き逃げるように移動をする蜥蜴の痣が
一際目立つ。
誰もが自然と目で追ってしまうその痣は
首筋まで来たかと思えば直ぐ
背中側へと消えてしまった。
ペットの如く
懐くようにも見えるその仕草だが
「 ・・・ッ。」
しかし、
今の健司にはその痣さえも
薄ぼんやりとしか視野に入れる事が出来ない。
数年前であれば
はっきりと見えた筈の、
・・・名取の痣。
「 ・・・名取。」
どうしようもない悔しさが
健司の胸にこみ上げる。
そして、ぐっと歯を食い縛り
蜥蜴が完全に隠れた所で
名取の眼鏡の奥の瞳へ視線を戻す健司は
割れた花瓶の上に一歩踏み出し
健司よりも少し背の高い名取の目の前に来た。
「 お前達に、
・・・何が分かると言うんだ。
僕の、
一体何を知っている・・・?」
「 ・・・?」
呟くように吐かれた
健司の小さな言葉。
静まり返った船内には
幾ら小さい声と言えども
その場の者は確と聞こえた。