第11章 ◆人と家族
健司の振り上げたナイフが
何かに当たり響く金属音。
ほんの少し時間が止まった様に
コマ送りの時間が流れた。
「 ・・・なっ!」
時折、
ビューと吹く割れた窓からの風。
その風の音が
健司と的場の間に入るように摺り抜ける。
「 ・・・お前は・・・っ!」
健司が目の前の出来事を
瞬時に脳内で整理した頃には
時既に遅し。
「 こんばんは・・・健司さん。
真夜中の豪華客船 という舞台で
こんな物騒な物を振り上げるなんて
・・・頂けませんねぇ。
全く、色気に欠ける。」
健司のナイフが的場に振り下ろされる
その直前に、
枝切れのような木を使い
十字の形で健司のナイフを防ぐその人物。
空いた左手でカチャリ、と
眼鏡を掛け直せば
その首筋に蜥蜴の痣が現れ
蜥蜴はそのまま肩の方へと消えて行った。
「 お前は・・・、
名取家の・・・っ!」
ーキンッ!
と、音を立て
防いでいたナイフを弾き飛ばすその人物・・・
名取 は手に持つ木を一振りし、
その場に姿勢を正し立つ。
「 御無沙汰しています、健司さん。
去年の会合以来ですね。」
「 ・・・名取家、お前は
今回の会合に呼んでいない。
何処で噂を聞き付けたのかは知らないが
お前も僕の邪魔しに来たのだろう?
名取、
僕はお前の祓い屋としての生命を
終わらす事さえ出来るんだ。
・・・退くなら今のうちだ。」
名取によって弾き飛ばされたナイフを
再度握り締め、
的場を庇うようにして立つ名取へ
健司はナイフのその切っ先を向けた。
その挑発に応えるようにして
名取も木を構える。
「 ・・・修行という努力により
この世界に身を置いた貴方の事、
本当は尊敬に値していたのに・・・
勿体無い人だ。」
小さく呟くように吐き出された
名取の言葉。
「 ・・・それには
私も賛同しますよ、周一さん。」
今まで一歩も動く事なく
名取の後ろで腕を組んでいた的場が
名取の横に立ち、応戦の意を表す。
「 全く、不本意だがね。」
隣の的場を一見して零す名取の悪態は
2人の協力の合図だった。