第10章 ◆人の妖化
ー瞬間、
パリンッ!
無音状態の室内に
窓の割れる音が谺響する。
「 誰だっ!」
さなの首元からナイフを離し
即座に窓に向かい声を荒らげる健司。
ナイフが離されたさなの首元からは
一筋の血が流れた。どうやら傷は浅いらしい。
さなは自分に構う事無く
可能な限り、窓の方へと首を傾けた。
「 居るなら早くに出て来たらどうだ。
・・・往生際が悪いぞ。」
健司が割られた窓の側まで近付く。
「 ・・・。」
そこから察知できる妖の気配は無い。
夏目であれば
感じ取れるかもしれない小さな気配。
それすらもさなには分からず
今出来るのは窓の方へ目を凝らすだけ。
「 ・・・居ない、か。」
ジャリ・・・と割れたガラス片を踏みながら
窓の外を確認する健司が呟く。
そして、その瞬間
ー・・・コンコンコン
「 ・・・っ!」
再度響く聞き覚えのあるドアのノック音。
さなは驚く余りに肩を震わせ、
窓へ向けていた視線を正面のドアへと移動させた。
「持って来たか。」
さなの横を足早に過ぎ去り
ドアの前で立ち止まる健司が
ドアの外の人物へ確認をする。
その口調は緊張からか少し強目だった。
「 ・・・はい。」
少し間を置いて小さく返される短い返事。
その声色は先程の的場とは違い
高くて、緊張からか揺れていた。
「 入れ。」
声を聞いた健司が
直ぐにドアを開け、その姿を確認すれば
部屋の中に招く。
「 失礼、します。」
「 ・・・?」
白い装束を身に纏い
目深にフードを被るその的場の部下は
大きな壺を抱え部屋に入ると
チラリとさなを見てすぐ視線を逸らした。
その行為にさなが首を傾げる。
ー・・・!
その瞬間にピリッと痛む首元。
痛みに思わず顔を歪めた。
ー・・・傷は深く無い筈・・・。
それなのに痛みが少しずつ増している
そんな気のするさなが
胸元へ視線を送ると
「 ・・・!」
さなの目に映る
肩から胸元にかけて真っ赤に染まる服。
それは出血が多い事を意味していた。