第10章 ◆人の妖化
抵抗する力を止めたさなを確認すれば
ふっと表情を緩めて両手を離す健司は
再度椅子に座り直し、さなと向き合った。
「 君の芯の強さというものには
僕は感心したよ。」
「 ・・・?」
小さく向けられたさなへの言葉に
さなは健司を見据えるだけ。
「 両親を亡くし、
周知されていない妖力を持って
他人の中で生きていくには
相当な忍耐力が要る。
こんな世界で、
君は絶望しているかと思っていたが
それは違うみたいだな。」
「 っ・・・。」
「 親の居ない君だからこその強さか。
・・・君の叔母が亡くなり
君は独りになった、やっと。
君自身は
独りでも生きていくつもりのようだったが
僕はチャンスだと思ったよ。
この人の妖化を
物心つく頃から僕は熟案していたんだ。
攫うように君を僕の保護下に置いた。
そして、
夏目貴志という少年と接触させる事で
君の妖力が完成したんだ。」
「 ・・・っ!」
健司のシナリオ通りに今の状況を
組み立てられている話に
さなは悔しさが募る。
しかし、
今は逃げ出す事も歯向かう事すらも不可能。
さなは健司に分からないように
グッと歯を食いしばった。
「 あの、夏目という少年と共に
今まで様々な妖と逢ったんだろう?
そして心身共に成長し
術に耐えられる程妖力も上がった。
そんな君こそ、・・・今回の術に相応しい。
僕の目に狂いは無かったよ。」
物音たてずその場にすっと立ち上がり
健司は自身の身を纏っているスーツの
ジャケット内ポケットに手を伸ばす。
「 あと少しで
僕は、君の命を亡くす
・・・僕の手によって。」
カチャリ、と
差し出したナイフ。
それはさなに先端が向けられ
同時に、
健司の視線もさなに突き刺さるような
そんな鋭さだった。
「 ・・・。」