第10章 ◆人の妖化
「 ・・・」
時計の秒針がチクタクと響く無音の部屋。
「 ・・・」
その無音の圧迫に押されまいと
だだっ広い部屋の隅々まで行き渡る巨大な陣。
見た事も無い不思議な、
文字と呼ぶべきかどうかも怪しい
そんな一筆書きに描かれた
落書きのような模様が陣全体を埋め尽くす。
その異質な空間の中
2人の人間が向かい合わせに座り
互いに視線をぶつけ合っていた。
「 ・・・ふぅ、
やっと日付が変わろうとしているな。
あと2時間の辛抱だ、さな。」
陣の文字を避けて置かれた椅子に
腕を組み、足をも組む健司が
目の前のさなへ微笑み告げる。
「 ・・・っ!」
「 あぁ、今は喋れないんだった。
すまないね。」
愉しそうに笑いながら
気のない謝罪をする健司の視線の先には
逃走防止の為、
手足共に体を椅子に固定され
口元も布で覆われて
言葉を発する事すらも禁じられているさな。
その姿は正しく的場の想像通りである。
「 怖がらなくていい。
この術はそんなに難しいものじゃないんだ。
安心しなさい。
・・・そうだ。
最後に僕と話をしようか、さな。
思い出話なんて
君の年齢だったら好きだろう?」
「 ん、ぅ・・・。」
珍しい程の笑顔を浮かべてさなに話す健司は
さなにとっては不気味そのものだった。
果たして、今の今までこの笑顔は
一度たりとも拝見出来た事があっただろうか。
そんなことを考えながら
さなは紐が解けないか、と
只管に身を捩っていた。
「 暴れるな。
無駄に体力を消耗されては困る。」
いつまでも藻掻くさなに両肩へ
健司は両手を置き、
さなの動きを静止させた。
「 ・・・!」
その低いトーンで発せられた言葉に
さなも思わず動きを止めた。