第10章 ◆人の妖化
的場の説明を聞き
夏目にとっては衝撃的な言葉が並ぶ中で
ニャンコ先生は静かに夏目に抱かれていた。
今までは
どれだけ酷い悪さをする妖でも
命を奪う行為までは至らなかった。
それが、同じ人間から命を狙われる
それも、身寄りのないさなの唯一の身内。
どれだけ、家を空けがちにしようとも
どれだけ、さなに対する態度が冷たくとも
それは家族だから出来ることで
私は家を任されているんだ。
と過去にさながニコニコと笑って
話していたのを夏目は思い出していた。
さなにとってのショックは計り知れない。
「 ・・・。」
夏目は無言のまま
無意識に拳を握り締めていたが
「 ・・・的場の小僧、
人の息を止めるという行為は
術の直前なのか?」
ニャンコ先生は至極落ち着いていた。
その様子にふっと脱帽する的場は
言葉を続ける。
「 流石は鋭いですね。
・・・貴方の言う通りですよ。
人の体温がある内に
呪詛を唱え始めなければなりません。
なので、午前2時直前までは
さなちゃんの無事は確信できましょう。
傷を付ければ術が成功した際に残ってしまう。
なので酷い事をされるとも考えられませんね。
丑三つ時までまだまだ時間があります
恐らくは、眠らされているか
縛り付けられていると思いますよ。」
的場の言う
さなの安否を想定する言葉にも
一切警戒を解かない夏目は
強めの視線を的場に向けた。
「 だからって
安心できる訳じゃありませんよ、的場さん。
どうすれば
健司さんを止められるんです?
的場さんなら、知っているんでしょう?」
「 君が急ぐ気持ちも分かりますが
こちらも闇雲に動いて彼の逆鱗に触れては
元も子もありません。
慎重に行きますよ。
・・・夏目くん、君にかかっています。」
「 えぇ、それは聞きましたよ。
俺にしか出来ないんでしょう
さなを守る事は。」
確りと揺るがない意思で答える夏目に
何処かで頼もしく思う的場は
ふっと笑みを零した。
「 ・・・後は頼みます。」
静かに呟いた的場の言葉は
誰の耳に届くことなく消えていった。