第10章 ◆人の妖化
「 その猫の言う通りです、夏目くん。
禁術が今すぐ始まる訳ではありませんし
始まったからと言って、直ぐに
さなちゃんの命を奪うなんてことは
為さらないでしょう。
・・・禁術というのは
危険な行為故に、とても繊細なのです。
君が思う以上に
時間と技量が必要になるんですよ。
君は、
〝丑三つ時〟という言葉を知っていますか?」
「 〝丑三つ時〟・・・?」
「 ・・・」
夏目とニャンコ先生の視線を受け
少しだけ表情を緩めた的場は
冷静に話し始める。
その的場から発せられる
〝丑三つ時〟という言葉に
首を傾げる夏目とは反対に
耳をピクリと反応させるニャンコ先生。
その仕草を的場は見逃さなかった。
「 その猫は知っているようですね。
・・・いいでしょう、君は知らないみたいだ。
草木も眠る丑三つ時という言葉があります。
その名の通り、
真っ暗で静かな時間帯を指しています。
大体午前2時頃ですね。
その丑三つ時というのは
君が日頃接している妖怪達にとって
とても活動しやすい時間帯なのですよ。
それは、妖力が最も満ちる時間であり・・・
そして、妖力が入れ替わる時間・・・。」
「 え、妖力が入れ替わる・・・?」
的場の言葉を復唱する夏目は
まだ先を読む事が出来ず
食い入る様に的場を見る。
「 丑三つ時にある術を施せば
妖力の高い妖はその力を
妖力の高い人である存在と
入れ替える事が出来る。
そして、それは人が人で無くなるとされ
妖もまた、妖では無くなると言われています。
・・・妖が人になる事は不可能です。
妖で無くなるとは
その存在が無くなる、という事です。
そうすれば、妖と化した人が残る。
それが、今回の人の妖化。
人とはさなちゃんを指し、妖とは妖の血。
その2つを同じ陣の中に入れ
人の息を止めて呪詛を唱え続ける。
成功すれば妖の血は無くなり、
さなちゃんはこの世の者ではなくなる。
・・・しかし、人間社会は複雑ですからね
人が消えれば問題となり事件となる。
それを容易に潰せる人物、
孤児を選び実行しようと
健司さんは目論んでいるのでしょう。」