第10章 ◆人の妖化
「 的場さん・・・!
離してください、今すぐ」
「 出来ませんね。
まずは君が落ち着きなさい。」
「 落ち着けますか!
さなが連れて行かれたんですよ。
早く、早く行かないと・・・!」
的場の部下を振り払おうと
的場の言葉を受けない夏目は只管暴れ、
的場の部下も夏目を押さえるのに
苦しむ表情を浮かべていた。
「 ・・・では、失礼します。」
ーゴッ・・・ン!
「 ぅぐっ・・・!」
聞く耳を持たない夏目に対し
的場は冷静に、一声掛けた後
一発の拳を夏目の鳩尾に入れた。
「 げほっ!
・・・げほ、けほっ。」
急に来た鳩尾に入った衝撃により、
夏目は腹部を押さえその場に蹲る。
噎せながらも、
涙目で目の前の的場を見上げれば
的場はニャンコ先生を脇に抱え
殴った拳を摩っていた。
「 ・・・君が聞かないからです、
話はまだ終わっていませんよ。」
「 けほっ・・・じゃあ、
その話って何ですか。」
夏目の睨み付けるような視線から
的場は殴った理由を答え
摩っていた拳を腕組みの形で隠した。
夏目は視線を的場から離すことなく
ゆっくりと立ち上がる。
「 ・・・言ったでしょう。
彼女を救う、と。
黒幕は私ではありません。」
軽く溜息をこぼしながら零す様に話す的場に
夏目は目を見開いた。
「 ・・・それって、
一体どういう事です?
的場さんも、あのさなの遠縁の健司って人と
同じ考えなんじゃ・・・」
夏目の質問に、表情は変えないまま
ふっと笑みを零す的場は続けた。
「 えぇ、上辺だけです。
縦社会のこの世界で
上層部である健司さんの言葉には逆らえません。
それで、私は彼女を
君に近付けることを提案した。
彼女の性格から
このままでは彼の言う通り実験体にされるのは
目に見えていましたから。」
「俺と・・・?」
「 君には充分過ぎる妖力もあり、
この猫のような大妖も
契約を交わさずに従えさせる力がある。
私は力任せに救う事しか出来ませんが
君には出来るのですよ、
〝彼女を守る〟という事が。」