第10章 ◆人の妖化
「 くく・・・。
面白いじゃないか、さな。」
『・・・?』
普段から殆ど笑う事の無い
そんな健司の嫌味を含む笑いに
目の前のさなは目を丸くさせた。
そして、健司は顔だけを斜め後ろに向け
表情を無に戻し、視線は夏目を捉える。
「 夏目くん、
君のお陰でさなも少しは変われたようだ。
内向的性格かと思いきや、
偶に怪我をして帰ってくるのを見る限り
やはり、君と妖が関わっているらしい。
君に近付けたのは正解だったよ。」
口角を少しだけ上げた健司の発言に
夏目は目を細め、警戒心を露にした。
「 ・・・正解?
一体どういう事です?
貴方は最初から・・・」
「あぁ、そうだ。
夏目くんとさなを接触させる事で
さなの妖力を存分に引き出せると思ったら
想像以上の結果だったよ。
僕に楯突くまでに主張出来るようになった所は
誤算だったが・・・まぁいいだろう。」
夏目の言葉を遮り
つらつらと話す健司は一切の迷いが無く
そのままさなに向き直った。
「 さな、君の意思は関係の無い事だ。
僕の指示に従いなさい。」
低いトーンでそれだけを告げると
さなの腕を掴み、力任せに歩き始めた。
『嫌っ、
嫌ですっ・・・!』
「 さなっ!」
夏目と的場を通り過ぎ
前方の上り階段まで足早に過ぎ去る健司とさな。
夏目がその後を追うように手を伸ばせば
夏目のその手をすかさず的場の部下が掴む。
「 離せっ!さな!」
夏目は的場の部下に抑えられ
なんとか振り払おうとするが
大柄な男性2人に
細身の夏目が敵うはずも無かった。
『夏目先輩・・・!』
さなが振り返り夏目の名を呼んだ時、
健司と共に階段の上へと姿を消した。
「 ・・・さなっ。」
夏目は結局さなの後を追うことは出来ず
見送る形となるが、
それでも諦めずに的場の部下から抜け出そうと
藻掻いていた。
「 ふぅ、
黙って聞いていれば・・・。」
そう静かに発する的場が
夏目の前に立つ。