第10章 ◆人の妖化
「 こいつは・・・」
「 この人・・・どうして?」
その影の姿を確認した
ニャンコ先生と夏目も小さく呟く。
「 ・・・いつ、こちらに居らしたのです?」
「 先ほど到着した所だ。
御苦労、的場。
あとは僕が引き受けよう。
・・・さぁ、来るんださな。」
コツコツと足早に近付く
スーツ姿のその人物は
的場と夏目の横を通り
さなの前で立ち止まり
片手を差し出す。
『・・・け、健司さん。』
恐る恐る、その人物の名を呼ぶさなは
健司を静かに見上げた。
『どうして、此処に・・・?』
「 言っていなかったけれど、
僕は払い屋の総括をしている。
今回の件も提案したのは僕だ。
叔母の死去後、
身寄りの無い君の為には
こうする方が良いと思ってね。
・・・君の時折する
あらぬ方向を見つめぼーっとしているそれは
妖を見ているんだろう?
誰かに話して怖がらすよりも
1人で背負い込んできたその能力を
今度は人の役に立つ為に使いなさい。」
スラッと背の高い健司が
さなを見下げ、表情を変えずに話す。
さなは、徐々に視線を下げ
『・・・ーから、』
小さく呟いた。
「 何だ?」
健司はさなの聞き取れずに少し屈むと
さなは潤わせた視線を健司に突きつけた。
『最初から、
そのつもりだったんですか・・・?』
少し震える声でさなが聞く。
「 ・・・そうだ。
身寄りの無い君を引き取ったのは、
今回の禁術の為だ。
さな、君のように
生まれながら妖力を持ち
その力を使いこなせずに悩む者は
他にも居る。
人間世界で不自由に暮らすより
妖となる方が自由に生きられる。」
『違う・・・!』
「 ?」
健司の言葉に強く否定するさなは
初めて健司に意見した事に一瞬ハッとなるが
そのまま健司から視線を逸らさず続けた。
『・・・私は幸せです、今のままで。
1人で全部背負ってるわけじゃないし
妖と繋がれる事を不幸なんて思ってません。』
「 ・・・さな。」
さなの言葉に夏目も小さく零した。