第10章 ◆人の妖化
コツンコツンと複数の足音が入り混じり
暗い階段を進む。
「 ・・・」
誰も言葉を発さずに
足音だけが響く船内で
夏目は、先頭を歩く的場に抱えられる
ニャンコ先生を気にし
時折背後のさなも確認しながら
脱出方法を練っていた。
ー・・・こんなに早く捕まるなら
さっきの船で脱出した方が良かったのか。
・・・しかし、
あんな近くに的場さんが居たんじゃ
あの小さなボートでは直ぐに追いつかれて
同じことになっていただろう。
ニャンコ先生も動けないし、
どう切り抜けるか・・・。
それよりも、名取さんは・・・?
もう逃げ出してくれていると良いのだけど。
「 周一さんは地下を調べていますよ、夏目くん。」
「 えっ」
突如、掛けられる声に
夏目は思わず思考を停止して顔を上げる。
「 恐らく、式の解放でしょう。
君たちを逃がし、彼は式と共に
この船を沈めるつもりなのかもしれませんね。」
的場は夏目に振り返り
悪戯っぽく笑い言う。
「 そんな・・・」
「 冗談ですよ。
けれど、地下に居るのは本当です。
監視カメラを確認しました。
なので、最上階の甲板に行きましょうか。
・・・準備は整ってますから。」
「 準備って・・・」
最後に付け足した的場の言葉を
夏目が復唱すると
夏目の後ろを歩くさなの気配が
少しだけ揺れた。
『・・・。』
「 あとは君が揃えば
始められますよ、さなちゃん。」
『っ!』
今まで喋らず付いてきていたさなも
息を呑む。
的場の視線はしっかりとさなを捉えていた。
「 ・・・。」
後ろにつく的場の部下の視線から
思わず抜け出そうとした夏目は
その衝動を抑え、拳を握り締める。
そうして静かなやり取りは終わり
階段を登りきると
ゆらりと一つの影が
的場の前に立ちはだかった。
「 ・・・的場。」
その人物は静かに的場の名を口にする。
「 貴方は・・・」
的場も予想外の人物の登場に
足を止めると
後ろをつく夏目やさなも
足を止め、前方に視線を向けた。