第10章 ◆人の妖化
『そ、外だ・・・。』
鉄製の扉の向こう、
式たちの待機場所と聞いていたそこは
地平線の曲線が分かるほどの海景色。
「 しかも、
ボートまで用意されてる。」
地下と聞いていたが為に
海面よりも下の階を想像していた2人は
海面数メートル上の小さな階段と
用意された3,4人用のボートを目の前に
ただ唖然とする。
ー・・・名取さん、そういう事か。
『これって、
〝逃げろ〟って事ですよね?』
さなの言うことに小さく頷く夏目。
そう、
名取は式の解放という
嘘の任務を2人に与えて
2人共を逃す算段であった。
そのことに
夏目とさなは今になって気付くと
夏目の表情は一気に険しいものに変わる。
「 ・・・。」
『夏目先輩?』
目の前にぶら下がるボートが
風に揺られる光景を
ただ無言で見詰める夏目は
自身の顎に手を当て何かを考え込むようだった。
その姿に、1度は声を掛けるさなも
夏目の時間を優先しそれ以上は追求せぬよう
首を傾げて待った。
ー・・・名取さんが、
的場さんの目論みを止める
全てを背負うつもりなのか?
「 俺は、
・・・行けない。
名取さんに丸投げして
逃げる訳には・・・。」
夏目の中には最初から
逃げるという選択肢は無い。
その事は先程さなと交わした言葉で
2人共の決意として決まっていた。
そのお陰で、考えるのに
差ほど時間は掛からない。
夏目は拳を握り、
言葉をはっきりと放つ。
『・・・先輩、私も同感です。』
夏目の姿に
どこかほっと安堵するさなも
隣でニコリと笑う。
「 あぁ。
さな、行こう。戻るんだ。」
この現状で微笑む彼女の姿に
夏目も表情を緩め答えると
直ぐに踵を返して来た道を戻る。
・・・がしかし、
「 ・・・おや、
此処に居ましたか。
随分と捜しましたよ、2人共。
・・・周一さんは居ないのですね?
ふふ・・・もう、逃がしはしません。」
静かに響くその声は
2人の耳にしっかりと届いた。