第10章 ◆人の妖化
「 ・・・あれは?」
『?』
長く続く狭く暗い廊下を進むこと数分。
先頭の夏目がふと足を止めて言葉にすれば
夏目の後ろをついていたさなも足を止め、
ひょっこりと首を傾げる形で
夏目の背後から夏目の視線を追った。
『・・・扉?みたいですね?』
2人の視線の奥先には
鉄製の重そうな扉が
少し開いた状態で止まっており、
開いた先には灯りがあるのだろう
光が漏れていた。
「 ・・・さな。」
『はい・・・?』
夏目は視線は変えず、
前を向いたままさなに呼び掛ける。
「 何があるか分からないけれど、
もし的場さんや七瀬さんが居たら
俺が食い止めるからその間に逃げるんだ。」
『え・・・そんな、』
「 そして、
名取さんと合流して船を出てくれ。」
夏目の提案に納得の行かないさなは
反対しようと声を上げるが
夏目はそれを遮り続けた。
「 ・・・名取さんも言っていただろう?
さなが捕まれば、意味が無いんだ。」
夏目はゆっくりと後ろを振り返り、
さなの両肩に手を置き
心配そうに見上げるさなに優しく言えば
さなは視線を外す。
『夏目先輩、
・・・ずるいです。』
「 ・・・へ?」
肯定の返事が来ると思っていた夏目は
予想外なさなの発言に
思わず素の声を上げた。
『〝離れないで〟って、
言ってくれたのに・・・。
的場さんに見つかったら
今度は離れるんですか?
そんな・・・
自分だけ犠牲にならないで下さい。
・・・2人なら、何とか出来るかも
しれないじゃないですか・・。
私、力不足で頼りなくて
足引っ張っちゃうかもですけど・・・』
酷く言い難そうに話し終えたさなは
コツん、と夏目の胸板に頭を預ける。
「 えっ・・・、
っさな?」
いきなりのさなの言動に
思いっ切りたじろぐ夏目は
速まる心臓を抑えられずに居た。
『夏目先輩も・・・
私から離れないで、
下さい・・・。』
そんな夏目にはお構い無しに
さなが小さく言う。