第10章 ◆人の妖化
長く続く廊下。
その先は暗くて見えず、
どんなに目を凝らしても
目の前の一本道しか
2人の目には映らなかった。
「 ・・・行こう。」
『はい・・・。』
毎日イヤと言う程
妖を見ているにも関わらず、
どうにも
この不気味な感じが苦手な2人。
夏目は意を決して
生唾を飲み込みゆっくりと足を踏み出した。
その夏目に続き、
あまり距離を空けないよう
さなも夏目のすぐ後ろに付いた。
「 ・・・。」
『・・・。』
数メートル間隔で設置されている
階段と同じ灯りを頼りに
2人は進んで行く。
その間、2人の間に会話は無く
雰囲気に圧倒されているのは言うまでもない。
ーコツン、コツン
階段よりも更に響く
2人の足音が
不気味な雰囲気を倍増させていた。
『あの・・・、
ほんとに、式たちは
居るんでしょうか・・・?』
足音以外の音の無い廊下で
最初に言葉を発したのはさなの方だった。
「 さなも、分かるか?」
さなの質問に
夏目は視線を前に集中させながら答えた。
『式・・・というか妖の気配すら
感じられません・・・。』
夏目の言葉に
小さく返すさな。
そもそも、
さなはある程度
妖の気配は察知できるものの
その力は田沼と同等で
夏目ほどは強くない。
さな自身、
自分には分からないだけで
夏目には感じられているのだと考えていた。
「 ・・・俺もだ。」
『え?』
夏目の意外な発言に
さなは思わず聞き返す。
「 俺も、妖の気配を感じないんだ・・・。
この雰囲気で最初は惑わされたけれど。」
『そう言われれば、
確かにそうですね。』
そう、
人は見えないものに恐怖を感じる。
式・・・妖の気配を感じられる事が出来れば
それは目視出来る2人からすると
然程の恐怖にはならない。
ましてや、
馴染みのある名取の式なら尚更である。
「 ・・・引き返すより、
ちゃんと確かめよう。」
『はい。』
薄ら勘付きながらも
2人は足を止めること無く
その長い廊下を進んだ。