第10章 ◆人の妖化
『この階段の一番下のフロア、
・・・ですよね。』
「 あぁ、名取さん曰く。だけど。」
コツンコツンと二つの足音が響く船内の階段。
あれから名取と別行動に移った
夏目とさなは
名取との約束を守るべく
その階段をゆっくりと降りていた。
「 さな、足元気をつけて。」
『はい。』
外観からは予測できない程に
狭く暗いその階段は
どうやら船員専用のようで
人は愚か、妖の気配も無い。
先を降りる夏目が
時折足を止めて後ろを振り返れば
さなを気遣った。
『・・・ニャンコ先生、
見つかるといいですね。』
外の光を遮断され、
踊り場毎にある灯りのみの
薄暗い階段を降りる中
さなが目の前の夏目の背中に
静かに呟いた。
「 そうだな。
でも、これでもし地下に居なければ
まだ漁港で・・・って事になるな。」
『ひたすら、
海鮮を頂戴してるんでしょうか。』
ニャンコ先生ならではの
いかにも、な内容が
2人の脳内を過ぎる。
「 ・・・そうなればもう、
他人のフリをしよう。
飼い主だとバレたら
一体いくら請求されるのやら・・・。」
『高そうですもんね、新鮮な魚介類。』
高額請求の恐怖から
徐々に肩を落とす夏目に
さなは苦笑しながら
同情の目を向けた。
「 そもそも、
海鮮目当てで着いてくること自体が
問題有りなんだ。
ここを抜け出したら
しっかり叱らないとな。」
『ふふ。・・・そうですね。』
夏目が後半を冗談半分で話せば
さなはニコリと笑って答える。
そのさなの笑顔は
暗い船内の階段でも
夏目には安心できるものだった。
「 あぁ。」
さなに釣られて
夏目も表情を緩ませた時、
『あ、此処。』
「 ・・・此処で最後か?」
其処は階段の終わりで、
今まで降ってきた階段の反対側には
長細く暗い1本の廊下が続いていた。
「 ・・・これ、見るからに」
「『不気味』」
『・・・ですね。』
2人は声を揃えて言った。