第9章 ◆的場一門
「 ・・・は?」
「 君が彼女を簡単に手放すはず無いと
粗方想定はしていました。
・・・しかし、
的場一門の式として居れば
他の妖から襲われることはありません。
君の心配事も無くなりますよ。
・・・それに、」
的場はすっと立ち上がり、
ゆっくりと夏目の横へ移動し
「 失いたくないんでしょう?
・・・さなちゃんを。」
そのまま夏目にそっと耳打ちをする。
「 ・・・いい加減にしてください。
そんな馬鹿げた話・・・っ!」
さなの元へ行こうと
立ち上がった夏目の腕を
的場はしっかりと掴んでいた。
「 馬鹿げていません。
本気ですよ。
・・・君は、妖に感情移入しながら
妖がどんな存在かを分かっていない。
人間同士で共存するより、
片方が妖の方が一生を約束できます。
君は惚れているのでしょう?
・・・彼女に。」
的場は掴んでいる夏目の腕を引き寄せ
顔を近づけ囁く。
「 っ・・・!
あ、貴方に何が分かるんです?
・・・もう、これ以上は話になりません。
帰らせて下さい。」
的場の手を振り解き、
さなの前に跪く夏目が
的場を睨みつけた。
「 はぁ、やれやれ。
君は本当に強情な少年ですね。」
「 ・・・。」
「 君は少し、頭を冷やしてください。
今度は彼女と直接話がしたい。」
「 ・・・?」
的場は立ち上がり、
夏目に背を向け
窓の側までゆっくりと移動した。
「 ・・・連れていけ。」
そう、片手を上げて合図した瞬間。
ーーーバッ!
2匹の式が夏目の両側を取る。
「 なっ!」
そして、2匹が同時に夏目の腕を掴むと
そのまま夏目ごと持ち上げ
廊下に繋がるドアへと進んだ。
「 離、せっ!
的場さん、やめて下さい!
・・・さなっ!」
両腕を取られている為
いつものように式を
殴り飛ばすことの出来ない夏目は
的場に向けて必死に抗う。