第9章 ◆的場一門
「 勿論。
まだあの時のお詫びもしていないし、
是非招待するよ。」
夏目には一切の視線も向けず
さなの目の前に立ち話す七瀬は
終始ニコニコと笑う。
「 そんな、お詫びだなんて・・・。
七瀬さんはこんな客船に乗れる
偉い方だったんですね。
それなのに私を誘ってくれるなんて
そのお気持ちだけで嬉しいです。
・・・今日は日帰りの予定で来ていますので
また機会があればお願いしますね。」
「 ・・・?」
先程の歓喜の声からは予想できなかった
さなの断りの言葉に
夏目も七瀬も一瞬、目を見開いた。
「 ・・・そ、そう?
こんな船、滅多に乗れないだろうに
いいのかい?」
「はい、
帰らないと家の者が心配しますし。」
「 見学だけでもどうだい?
・・・甲板からの景色は綺麗だよ。」
ニコリと表情を崩さず断り続けるさなに
執拗に七瀬は食い下がる。
「 でも・・・」
「 ほら、少し見るだけなら良いだろう?
1時間もかからないんだから、
・・・ね?」
そう言って殆ど強引にさなの手を取り
スッと顔を近付けてさなから
有無を言わさない雰囲気へと持ち込む。
「 いや、あの・・・」
「 ほら、少しだけ
少しだけだから。」
「 ちょ・・・っ!
困ります、私・・・」
強張るさなの手を七瀬は無理に引っ張り
客船の入口まで連れて行こうとした
その時
ーバッ!
「 ・・・っ!」
不意に離れる七瀬と
開放されたさなの間に
スッと影が掛かった。
「 七瀬さん
俺達、他にも予定があるので
此処で失礼します。
・・・(一体何が目的なんです?)」
七瀬とさなの間に強引に押し入り
すかさず背中にさなを庇うように
体制を取った夏目は
さなには聞かれないよう
小さな声で七瀬へ問い質す。
「 ・・・ふんっ、
そうか、デートの邪魔だったね。
申し訳ない事をした。」
夏目の行為に一瞬驚くも
その表情は先程のものにすぐ戻り、
「 ・・・それじゃ、またね。
さなちゃん。
夏目くんとのデートを楽しんで。
・・・(的場が彼女をお呼びだよ。)」