第9章 ◆的場一門
「 ・・・あっ!」
「 え・・・。」
ー・・・どうして、此処に?
その見知った姿に
顔を明るくさせるさなとは正反対に
顔を青くさせる夏目は咋に嫌な顔をする。
「 また、ぶつかってしまったね。
大丈夫だった?」
「 いえ!こちらこそ、
あの時忠告されてたのに
ちゃんと回りを見ていなくて、
すみませんでした。
それと、
前回はぶつかっていませんよ、七瀬さん。」
思わず駆け寄るさなを
上から下まで怪我の確認をする人物は
紛れもなく、1週間ほど前に出会った
初老の女性。七瀬。
ー・・・親切な方と出会ったって
七瀬さんだったのか・・・・・・・・・。
「 ・・・。」
ぶつかった事よりも
再会した事に喜び話す2人を見て
夏目は怪訝な表情を浮かべていた。
「 あ、夏目先輩。
この方、前に私を家まで送ってくれた
七瀬さんです。
とても親切なんですよっ。」
七瀬との会話にひと段落付いたのか
夏目へと振り返り他己紹介をするさな。
「 ・・・そ、そうか。」
「 私の通う学校の先輩で
夏目先輩です。」
さなは順番に、
夏目を七瀬に紹介する。
「夏目くん・・・ね。」
「 ・・・どうも。」
夏目を真っ直ぐに見る七瀬の目は
一切笑っておらず、
その姿に夏目も笑うことなく
軽く頭を下げるだけ。
「 ・・・?」
いつもであれば、
人当たりの良い挨拶を交わすであろう
夏目の態度は全くの無表情で
隣で見ていたさなは首を傾げた。
「・・・折角だし、
君たちも乗るかい?
この船。」
気まずい沈黙を破るように
七瀬は夏目に向けていた視線を
さなに変えて言った。
ー・・・駄目だ絶対に。
「 いや・・・」
「 いいんですか?」
本能的に着いて行ってはいけないと
判断した夏目が断ろうとした所で
さなの好奇な声が重なった。
ー嘘だろ・・・。