第9章 ◆的場一門
「 えっ・・・!
いいんですか?」
夏目の提案に驚き
足を止めて聞き返すさなに
夏目も数歩先で足を止め振り返る。
「 あぁ、
週末の予定がないなら。
偶には気分転換にも必要だろ?」
「 ・・・はいっ!」
微笑みながら言う夏目に対し
満面の笑みで一つ返事で答えたさなは
小走りで夏目の横へと落ち着く。
「 どれくらいの規模なんだろうな。」
さなが隣に着いたのを確認してから
お互い同時に家路を歩き出す。
そして、ふと疑問を零せば
「 人が300人乗れるそうですよ。」
「 えっ!そんなにも乗れるのか?
じゃあ、本当に豪華客船なんだな。」
即答で答えを教えてくれるさなに
驚きの声を上げて視線を向ける。
「 きっと見た目も豪華でしょうね!
・・・ふふ、楽しみ。」
「あぁ、俺も
楽しみだよ。」
そう、二人して笑い合う影は
少しずつ長くなって
子寒い風が二人を包むことも気付かず
夏目はさなの歩幅に合わせながら
さなの家まで送り届けた。
〝楽しみ。〟
ー・・・それは、
見た事の無い豪華客船を見れる楽しみと
さなとゆっくり過ごせる休日の楽しみ、
そのどちらの意味合いも込めていた。
そんな夏目の小さな希望すらも崩す如く
さなを送り届けてから
ひとりになった夏目の背後に回る影。
ー・・・!!
「 誰だっ?」
急に感じる気配に
咄嗟に振り返る夏目の視線の先。
そこには、
「 ・・・誰も、居ない?」
人影は夏目自身の物だけで
あとは何も変わらない
いつもの風景だった。
ー・・・気のせいか?
暫く辺りを見渡してから
また帰路に着く。
「 ・・・やはり、
来てくれると思っていましたよ。
夏目くん、そして
さなちゃん。
きっと素敵な船旅になりましょう。」
夏目を見送る
長髪の細長い影は
ニッコリと微笑んだ。