第9章 ◆的場一門
「 あ、夏目先輩っ!
今帰りですか?」
「 あぁ、さな。
さなも今帰りか?」
「 そうです、
良かったら一緒に帰りましょ?」
バタバタと下駄箱を行き交う生徒の中で
さなは見知った姿を発見し声を掛ける。
ー・・・言えない、
西村の話を聞いて
さなの事が心配で帰りを待ってた
なんて言えない・・・。
「 だいぶ、日が長くなりましたよね。」
「 ん?
・・・あ、あぁ、・・・そうだな。」
冬の終わりがけ、冷たい空気の中で
薄らと赤みがかった空を見上げて
はーっと息を吐いて言うさなは
夏目のぎこち無い返事にも
気にすることなく隣を歩く。
「 全く、ヘタレめ。」
「 っ!・・・うるさいぞ、先生。」
その様子を夏目のショルダーバッグから
こっそりと覗いていたニャンコ先生が
小さく呟く。
さなには聞かれないように
夏目もこっそりと言い返す。
「 なぁ、さな。
最近はどうもないか?
変な人に会ったりとか・・・」
「 変な人、ですか?
・・・うーん、特に無いですよ。
妖に名前も返してますけど、
今は落ち着いてて
そのお陰で勉強が捗ったり
あ、親切な方に会ったりとかもして
良い事が多いです。」
そうニッコリと笑って夏目を見上げるさなに
「 ・・・そうか、
それなら良いんだ。」
夏目も釣られて笑い
さなのその変わらない姿に安堵した。
「 そういえば、先輩。
今度港に豪華客船が来るみたいですよ。」
「 ・・・客船?」
「 はい、お船です!
それも、おーっきいらしくって
普段は都会でしか見られないけど
特別にこの近くの港に来るんだって
クラスの子達が話してたんです。
見てみたいですよねー。」
ー・・・豪華客船、か。
腕を広げて壮大さを伝えようとする
無邪気なさなを見て、
夏目も少し考えてから頷く。
「 ・・・見に行くか?一緒に。」