第8章 ◆田沼ノ寺
〝あら、
あなた字が読めるのね。〟
二階の住職の書斎にて
一冊の本を二人で読む
大きな影と小さな影。
本を開いて妖が字を読むその行為に
少女は関心の声をあげる。
凄いじゃない!
少女がそうニッコリと笑って
妖に目を向ければ
妖は少し照れくさそうに俯き
一回だけ小さく頷いた。
そして、
〝此処ノ香リ・・・好キナノダ。
香リノ元ヲ探シタラ、
コノ本ダッタ。
住職ガ読ムノ、コッソリ見テ
読ミ方覚エタ。〟
そう、ぽそりと答えた。
少女はその言葉を聞きながら
次第に首を傾げる。
〝じゃあ、どうして食べちゃうの?〟
少女は頭の中に浮かんだ疑問を
そのまま妖に投げかける。
〝・・・。
住職ニ見ラレルノ怖カッタ。
ソレニ、
食ベタラ、私ノ体ニモ
本ノ香リガ付クト思ッタ・・・。
ダカラ、本ヲ盗ッテ食ベテタ。
・・・ケド、香リハ付カナカッタ・・・。〟
妖は先程の照れた表情からは
打って変わり、
悲しそうに俯きながら話し
〝なるほどねー。〟
妖のその姿に少女は
ふーん、と相槌を打った。
その時、
〝それなら、此処で読んでいるがいい。〟
スッと開けられた襖から
住職が少しだけ顔を出して二人に話しかけた。
〝・・・?〟
住職の言葉に今度は妖が首を傾げる。
〝私は寺の仕事もある身、
この書斎にはあまり来ないのです。
いつも閑散としている部屋ですが、
あなたが此処に居てくれて
本の香りを楽しみ
本を読んでくれるのなら
本達も喜ぶ事でしょう。〟
住職は妖の前に移動し
ゆっくりと正座すると
ニッコリ微笑んだ。