第8章 ◆田沼ノ寺
〝ねぇ、
本って食べるものじゃなくて
読むものなのよ?〟
ふと、足を止めた少女は
目に入った本を食べる妖の肩を叩いた。
そして、妖が食べるのを一時停止し
少女の方へと視線を向ける。
向けられた視線を少女が確認すると
その少女はニッコリと笑いながら
その行為を注意した。
〝何ダ、オマエ・・・
人ノ子・・・カ?〟
妖は少女を見て不審に思い
更にそれは、恐怖心も煽った。
〝人ノ子ノ癖ニ、
私ガ、怖クナイノカ?〟
妖の口の端から
食べかけていた本の端切れが
ひらりと芝生に落ちる。
妖の言葉に少女は
ふぅ、とため息をひとつ零すと
芝生に落ちた本の端切れを拾い上げた。
〝怖くなんてないわ。
でも、この本はあなたに食べられて
さぞ怖いでしょうね。
だって、食べられる為に
本で在るんじゃないんだもの。〟
少女は少しだけ口を尖らせて言った。
その姿に妖は手に持った本へ視線を落とす。
〝本ガ・・・怖ガッテイル・・・。〟
ぽつりと吐いたそれは
少女の耳に届いたか否か、
少女は妖の目の前に立った。
〝ほら、
分かったらその本返しに行くわよ。〟
そう言って、少女は妖を立たせ
ふわふわとした太めの腕を掴んで
歩き始めた。
〝ド、何処へ行クノダ・・・!〟
妖は戸惑いながら少女に訊ねる。
〝本の持ち主の所よ。〟
少女はそれだけを答え、
ずんずんと進んでいった。
妖は抵抗すること無く
少女に引かれるがままに付いていった。