第8章 ◆田沼ノ寺
ー…ガサ…
…ガサ…ガサ…
「 …っ。」
その影は襖の取っ手まで来ると
「キ…キキョ…ゥ…。」
小さく唸り声のように囁く。
その声はか細く今にも消えそうだった。
そして、
ー…ザザっ
静かに襖が開けられる。
「……キ…キョ……ゥ…。」
開いた襖から
徐々に姿を現す妖。
「なッ…?」
その姿を見て思わず声が上がる夏目に
「 …?」
さなも夏目の背後から覗き見
言葉をなくす。
「…一体、どうしたんだ?」
ぼんやりと動く影が見えるだけの田沼は
痛む頭を片手で抑えながら
言葉だけを夏目とさなへ向けた。
「 これは…」
「…さっきよりも
デカくなってる…。」
「なに?」
妖は先程の姿の一回り程大きくなった姿で
ゆっくりと移動していた。
しかし、その姿は先程の勢いですら無く
ただノロノロとゆったりした足取りで
今にも崩れそうになりながら書斎へ入る。
「 …夏目先輩。」
さなは静かに夏目を呼ぶと
「あぁ…。
分かってる。
…早く、返さないと。」
そう言って、
夏目は自身の鞄に手を入れた。
・・・そう、
微弱だが妖に反応する友人帳へと
手を伸ばしたのだ。