第8章 ◆田沼ノ寺
その時だった。
……ガサ…。
部屋の外遠くから何かを擦る音が鳴る
その音には
そこに居た全員が気付き
全員思わず動きが止まった。
「今のは…?」
その沈黙を破ったのは田沼だった。
「…来る。」
続けて夏目が
外に繋がる襖を鋭く見つめながら
静かに言葉を零した。
「きっと、
さなの臭いを追ってきたのだろう。
厄介なものに変わっていなければいいがな。」
「 …厄介な、もの…?」
ニャンコ先生の意味深な言葉が
三人には引っかかった。
さなが続きの言葉を促したが
その先の話を聞く事はなく、
外から聞こえる音は
ズルズルとすぐ傍まで来ていた。
そして、
「 …ぁ。」
襖に例の妖の影が映る。
その瞬間、
思わず声を上げてしまったさな。
「…入ってくる。」
夏目がさなを背中に庇うようにして
ごく自然に盾になった。
ゆっくりと動く妖の影から目を離す事なく
三人は生唾を飲み込んだ。
「・・・さな、」
妖は徐々に襖に近付くが
夏目は後ろ目にさなに声を掛ける。
「 …?」
不意に名前を呼ばれ視線だけを夏目に移し
その続きを待つさな。
その姿をしっかり捉えた夏目は
ふっと微笑み、
「俺から、離れないで。」
視線を襖に戻しながら
背後のさなにそれだけ告げた。
「 …はい。」
夏目の言葉に控え気味に返事をして
さなはしっかりと頷いた。
頬を紅く染め俯いていたさなに
気付いていたのは、
その様子を見ていた田沼だけだった。
ー・・・あの二人の間に・・・、
俺の入る隙は無さそうだな。
緊張感漂う空気の中で
田沼だけ一人、
嫉妬に近い感情を噛み締めていた。