第8章 ◆田沼ノ寺
「 そっか…。
そうだったんだね、桔梗さん。」
徐々に近付く妖に怯えることなく
さなはふっと表情を和らげた。
「お前、食べタラ、キット…。」
「 ねぇ、待って。
桔梗さんの待ち人が誰だか分かっているの?」
さなの様子に気付くこともなく
妖はゆっくり、ゆっくりとさなに近付き
「お前、タベル…」
細く長い腕を伸ばし始めた。
「 ちょっ…と、待って!
…聞こえてる?桔梗さんの待ち人は…」
「タベル、タベル、今度ハ残さナイ…」
今の妖にはさなの言葉は
全く入っていないようだ。
「 ねぇ、聞いてッ…!!」
とうとう、伸びきった妖の腕は
さなの首元をしっかりと掴み
「桔梗ノ、為…。」
さなを離さないよう爪を立て
その薄い皮膚にしっかりと食い込ませた。
「 …ッぅ、ぐ…!」
後ろ手に縛られ、身動きが取れないさなは
小さく身を捩るだけで一切の抵抗が出来ない。
「安心シロ。
息止まったラ、タベル。」
ー…そんなこと、聞いてないっ!
心の中では叫べるものの、
さなは次第に視界がぼんやりし始める。
「 うッ…。」
ーこれじゃ、桔梗さんが…。
報われない…よ。
「モウスグ…、モウスグ…。」
その内、
身を捩ることもしなくなったさなに
妖は好奇の目を向けた。
ー・・・待ち人・・・その人は・・・ッ!
遠のく意識の中
ぼんやりと考えるその人物。
ー・・・夏目、先輩っ・・・。
そして脳裏に浮かぶ夏目の姿。
目の前が暗くなる感覚に襲われ
次第に諦め目を閉じるさなの耳に
「……、…っ。……!」
その声は薄らと届いた。
「 ・・・・・・・・・?」
ー・・・声・・・?
そして、
その声は次第に大きく
ハッキリとさなの耳に届いた。
「……さなッ!!」
「…さなちゃん!!」