第8章 ◆田沼ノ寺
「 ん…」
ー…ここは?
ぼんやりと目覚めたさなは
視界がはっきりしないながらも
視線だけで辺りを見渡す。
ー…どこなの?ここ。
照明器具が一切ない土のような天井に
湿っぽい臭い。
ひたひた、と水滴が落ちる音も微かに聞こえていた。
「 …いッ!」
さなは寝そべっている体勢から
起き上がろうと、上体だけを起こすと
両の手首に何かが喰い込む感覚で顔を歪ませる。
「 何、これ…。」
腰あたりで動かない手首を確認するため
顔を後ろに向けると
細い、所々毛羽立ったロープがしっかりと
さなの両手首に巻き付いている。
毛羽立っている所が時折さなの皮膚へ刺さり
既に数本の擦り傷を作っていた。
ー…逃げられない、よね…。
さなはどうにかして、そのロープを外そうとしても
一向に外れる気配はなく、
無残にも手首に傷を作っていくだけ。
「 …はぁ。
それより、此処は何処だろう。
田沼さん家にこんな場所あったのかな?」
手首に巻き付くロープを外す事を一旦諦め、
現状を把握すべく、さなは辺りを見渡した。
「 何も、見えない…。」
暗闇にまだ目が慣れないのか
それとも、元々こんな背景なのか
見渡しても暗闇が広がるだけ。
ー…このまんま、って訳にも行かないしなぁ。
さなは少し考えた後、
ふぅ、と息を吐き出して
「 夏目先ぱーーいッ!
田沼さーんッ!」
力いっぱいに叫んだ。
その声は木霊することもなく
暗闇へ消えて行き
さなはもう一度叫ぶ為に息を吐く。
そして、
「 ニャンコせッ…!」
その叫びは言い切らないうちに
何者かによって妨害された。
「 んぐッ?!」
さなの口を塞ぐその細長い物体。
ー…これ、あの時の…。
それは、田沼の家の台所で見た
自分の体を締め上げていた妖の腕だった。
あの時同様、妖が耳元でふぅ、と息を吐くと
「ココ、誰も来なイ。」
そう、囁いた。